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zoom RSS 雑記「暇な神様のパラドックス」

<<   作成日時 : 2009/01/21 23:53   >>

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今更ながら読了。




 僕の本棚は結構時間が遅れているので、話題作を寝かせすぎて旬を過ぎてしまうことはしょっちゅうなのですが――まあそれはさておき。
 いくつかの書評を見ると、割と馬鹿話として素直に楽しんでいる方が多いようです。
 実際、まずもって優れた馬鹿話ではあるのですが、その根底には極めて数学的な思考、論理のパズルを軽々と弄ぶ冷めた視線が隠れています。久しぶりにSFらしいSFを読んだ気分。
 日本人的な細部への拘りと同時に、R・A・ラファティや筒井康隆をも思い起こさせる豪快なユーモアも感じさせる語り口。それは結果として現代アメリカの翻訳SFに似た感触を与えるものになっています。
 この印象がどこからくるのか、一言で言い表すのは僕の乏しい語彙では難しいのですが、所謂「いい話」を語ろうとするとき、簡単に情緒に逃げない所がそう感じさせるのかもしれません。その筆致はあくまで抑制された、どこかすっとぼけたものです。
 個人的には、フロイトの所やアルファ・ケンタウリの下りはによによせずにいられませんでしたね。

 で、以下はネタバレを含む、やや斜めからの感想。

 この物語の縦軸には「円を描きつつも無限に拡散し、けして一つに収束することのない物語」が無数の支柱として存在します。しかし、同時に横軸には、その物語が成り立ちうるか否か、というパラドックスの枝もまた無数に提示されています。 故に、一見不可逆的な一本の流れを構成する要素に見える個々の物語が、果して同一の柱に存在するか否かを証明する術は存在しません。何故なら、この物語は語り手がそもそも信頼できない存在であるという状況を前提にして語られているからです。
 ここで僕が思い出したのはやはりというか筒井康隆の「驚愕の荒野」でした。
 「驚愕〜」には仏教説話的な世界軸が前提としてありましたが、本作には一見明確なモチーフとなる世界は存在しない――あるいは複数存在しているように見えます。しかし、考えてみればそれぞれの物語は全て何らかのパラドックスにまつわるものであるという共通点を持っています。命題と定理と、それに対するいくつもの反証との組み合わせで個々の物語は組み上がっています。
 その意味でこの作品は、パラドックスにまつわるいくつもの思考実験を馬鹿話に仕立て上げた作品、と読むこともできるでしょう――いや、むしろ一見馬鹿話と思わせて、計算された場所に配置された各章が思考実験のように見えなくもない一続きの物語に仕立て上げられた作品、と言うべきかもしれません。
 作者は個々の物語に明確な結末を与えません。結末はあくまで物語の外側、我々しか知り得ない所、我々すら知り得ない所にしか存在しない――あるいは存在したとしてもけして気づく事は出来ない、そんなものとしてのみ存在するのでしょう。
 
 ――何が何だかわかりませんね。大丈夫です。
 読めばだいたいのところはわかります。
 あるいはもっとわからなくなります。
 
 ところで、物語の途中で軽く言及されるフィリオクェ問題ですが、神学を離れて見てみればそもそもあの文章自体がパラドックスの塊、ということは「三位一体」の文章を読んだ事のある方はご存じかと思います。
 嘘つきクレタ人のパラドックスと同様の自己言及構造を内包するそれは、神学というフィルターを通さない限り受容不可能な論理だと言ってもいいでしょう。
 そして、ここで僕はキリスト教グノーシスのバシレイデス派の教理を語る際に言及されたある神の定義を思い出します。
「ホ・ウーク・オーン・テオス」――ギリシア語を敢えて日本語に訳すと「存在しない神」あるいは「神ではないもの」と訳されてしまうその存在。
 全てを生み出した、しかしここにもどこにも居ない神。
 この概念はどこか誰かの存在、いや不在でしょうか――を思い起こさせます。
 多くの神話では原初の創造神は「暇な神」デウスス・オティススとして幕の裏側に退きますが――さて。
 裏側をのぞき見ようとする無粋な客が無限に存在する舞台。
 そんな舞台を常に舞台の袖から観察しつつ、なおかつ客に存在をけして悟られないように振る舞う神。
 その舞台を彼が制作したことを誰も知らない、けれど誰かが作ったことだけは誰もが知っている、そんな神。
 ――そんな神様がもし居るとしたら、あるいは居ないとしたら。
 それはむしろ、宇宙一忙しい神様であるのかもしれませんね。

 読み終えた後、そんなことを思ったり思わなかったり。

 まあ、僕の文章より百倍わかりやすいネタバレ解説が既にあるので、ここまで読んで一層わけがわからなくなった方はこの辺を読まれると宜しいかと思います。
Self-Reference ENGINE - 誰が得するんだよこの書評:
 
 また思うところあったら文章を追加するかもしれませんが、とりあえずこんな所で。

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