武装錬金SS「ムーンフェイスの勧誘」

漫画(アニメも放送中!)「武装錬金」の原作連載中に2chに投稿したSSです。黒崎先生の公式過去話が出た今となってはアレですが当時の習作ということでここにあげておきます。
ムーンフェイスと某少年の出会いがテーマでした。
「ムーンフェイスの勧誘」

「西山くん、いっしょにかえろ?」
「……津村さん」
西山くんは4年2組の一員だ。
津村さんはとなりの席の女の子だ。
といっても、そもそも彼女を知らない同級生などいない。
去年、グランドを占領していた6年生の餓鬼大将を蹴り(急所)一発で叩きのめしてからというもの、彼女は同年代の人気の的だった。
「どーしたの?」
「いや……」
クラスが一緒になったのは今年。
帰り道が途中まで一緒なので、自然と話すようになった。
「あした日直だね」
「うん」
「なに、そのアザ?」
「またあいつらにやられたの?」
「……違うよ」
「そうでしょ」
「……うん」
同年代の悪がきグループは、弱っちくて坊ちゃん風の西山が津村さんと親しくしているのが気に入らないらしい。
しょっちゅう一人のときはちょっかいを出してくる。
津村さんが呼ばれて飛んでくるとこそこそ逃げ出すのだが。
「……まったく、あいつらときたら!こんどあったら目潰しプラス急所蹴りで」
「……いいよ。やめようよ津村さん」
まだ怒りさめやらぬ様子の津村さん。
「だいたい、西山君はおとなしすぎるの。」
「……」
「だめだよ。いいたいことあったらちゃんとぶちまけないと」
「ぶちまける?」
「そう。むねのなかにあるものを全部はきだすんだって。俺になんでもぶちまけてみろ!って」
「……だれがそんな事を?」
「うちのおとーさん」
……おとーさん、日本語まちがってないか?
「でも……」
「でもは禁止!だってうちのおとーさんいってたよ」
「……そもそも、津村さんのおとーさんってどんな人?」
「?おとーさん、機動隊」
「……津村さん、それたぶん冗談だったんだよ」
「……そうなのか?」
「多分」
「うーん……とにかく、ぶちまけてみるの!」
「……そうか。それがいいのかもね」
「そーよ。ぶちまけるの」
「そーか」
「明日は学芸会のリハーサルだよ!」
「うん。間違えないよう頑張るよ」
「がんばろー!じゃーねー!」
角で津村さんと別れ、更に家路をたどる。
「ぶちまける……」
ところで、漢字ではどーやって書くんだろう?
などと考えているうちに玄関に着く。
西山君の家は共働きだった。
父は単身赴任でここ数年は正月くらいしか顔を見ない。
……いや、最近はそもそも、帰ってこようともしない。
代わりに母はしばしば別の男と会っている。
最近では家で夕食を食っていくこともある。
仕事の同僚、とかいっていたが、そんな訳があるものか。
あのなれなれしい下卑た態度。
扉をあけたら、あの男がいる、なんてことがありませんように。
……あれ?
鍵が開いている。
母は今日遅いはず……ってことは、いるのか……ちぇっ。
おおかた母が合鍵まで渡してしまったのだろう。
あの男は部署が違うので、母より早く仕事から上がってくることもあると前に聞いたのを思い出した。
「……いるの?」
男物の靴がある……やっぱり…あれ?
妙な匂いがする。
鼻を微妙に刺す、鉄の匂い。
いや…これは…血?
なんだろ?
居間を開けてみた。
「?」
異様な光景だった。
居間は真紅に彩られていた。
……血だ。
真紅に染まった絨毯の真ん中に人がひとり倒れている。
……母親だった。既に事切れている、のは何故か一瞬で判った。
「かぁさん……?」
「むーん、君は誰だ?」
「……?」
どこから…声が?
「ここだよ。見えないかね少年」
「ひっ?」
ソファの上に背広が掛けられている……と気づいた瞬間、その背広がいきなり立ち上がった。「??」
よくみると、背広には厚みがあった。誰かが着ているかのように。
しかし……本来あるべきはずの襟の上には……何も無かった。
「???」
「むーん?ああそうか。新月のままだったよ。失礼したね」
ぼん!と音がすると同時に……
襟の上に三日月が現れた。
「????」
更に訳が分からなくなった。
「ふむ……私はムーンフェイス。君は……この女の子供かね?」
西山は、いつのまにかへたりこんでいた。
なにか、全て悪い夢の中にいるようだ。
「子供かと、聞いているんだよ」
声は奇妙に優しいが、その中には少年の拒絶を一切認めぬ何かがあった。
「…は、はい!」
「むーん…ならば、一応説明が必要かな?」
「……」
とりあえず、肯いた。
「……君の父上は我々の信奉者として財政を支えてくれていたのだが」
ムーンフェイス、と名乗った三日月が取り出した写真には。
「母上とこの男に騙されてね」
あの下卑た男の姿があった。
「父上は死んだ」
……死んだ?
「……へえ……そうなんだ」
……あまり実感が無い。
「……母さんも、父さんを殺したの?」
「そうだ。この男に騙されてね」
「あいつ……この男は、どうしたの?」
「ふむ……なかなか嗅覚の鋭い男でね。私は二人ともおびき出そうとしたのだがうまく逃げられてしまったよ。流石は錬金戦団のスパイ、といった所か」
やれやれ、と三日月は首を振る。どうも見ていると眼がおかしくなりそうだ。
「おまけに口も封じられてしまってね」
「?」
「ああ…誤解しているようだが、君の母上を殺したのは私ではないよ。
私はこんな無粋なやり方はしないからね。私なら…ほら、このとおり」
バシュウ!
一瞬で母親の体が消えた。
「!?……そうなの?」
母を殺したのは、この怪人ではないのか。
あの男なのか。
「いかにも!私ムーンフェイスは嘘は言うが誇りは持っている」
胸を張って怪人は宣言する。
「君をこうしてしまうことも簡単だ」
そして謳うように続ける。
「しかし私ムーンフェイスはその前に常に問う事にしている――
死ぬ前に、やりたいことがないか、殺りたい者はいないか、とね」
「……僕を……殺すの?」
恐怖か、それとも緊張か?声がほとんど出ない。
「むーん。君は其れを望むか?」
……ぶんぶんぶん。
声の出ないまま、首を振った。
「むーん。では君はこの男の死を望むか?」
……ぶん。もう一回。しかしそこには力が無かった。
「そうかね……?君は、本当はこの男を」
声に滲むは憐憫か嘲弄かいずれとも定め難く。
怪人は宣告する。
「殺したくて、しかたないんじゃないのかね?」
「……」
考えてみた。
昨日までの生活を考えた。
母と父を殺した男の事を考えた。
……殺してやりたい。
どっちにしたって、もう戻れない。
……こくり。
ゆっくり肯いたあと、顔をあげた。
「みんな……殺して」
声が、出た。
「そうかね!むーん素晴らしい!」
よしよし、と怪人は彼の頭を撫でると。
「それでは」
三日月は、にたりと笑った。
「君の望むものを 、あげよう……」


翌日のこと。
……ぱたぱたぱた。
津村さんは廊下を小走りで急いでいた。
……和服の着付けというのはどうも判らない。
動きづらい事この上ないが、役とあっては仕方なかろう。
ようやく教室のドアにたどりつく。すでにリハーサルが始まっている頃だ。
さぞかし賑やかなことだろう……と思っていたが。
妙に静かだ。
「?」
しかも、耳をすますとうめき声のようなものが聞こえる。
……なにかのぷれいか?
「すいません……着替えに時間が掛かって……」
とりあえず開けてみた。
がらり。
「?」
教室の中心。
「彼」が立っていた。
鮮血の海の中。
血にまみれ微かにのた打つ級友を一瞥だにせず。
ただ、じっと手を見ていた。
ゆっくりと振り向く。
「……やあ、津村さん。遅かったね?」
「にし……?」
「……どう?ぶちまけてみたんだけど?」
「い……」
「いやああああああっ!!」


End.


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