武装錬金SS「ダンシング・イン・ザ・ムーンライト」

武装錬金SS二つめ。今回も主人公はムーンフェイスと西山くん。原作でヴィクターとカズキが二度目に戦っている時期の話を想定していました。これも今となってはアレですがまあどうかひとつ。
「ダンシング・イン・ザ・ムーンライト」

とある喫茶店。客は二人のみ。
向かい合うはムーンフェイスと一人の青年。
「むーん、いい香りだ」
「最高級のシロンです。お気に召しましたか?」
「ふむーん。良いね、とても良い。判断するに、君たちの懐具合は良好のようだね?」
ムーンは例によって横顔を相手に向けている。
「ええ。我々には強力なスポンサーがおりますので…」
西山と名乗るこの美青年。実年齢も相当に若いようだが、それにしては驚くほど物腰が整っている。……昔、どこかで会ったろうか?
慇懃無礼を絵に描いたような……といったら悪いか。
しかし、その眼は紛れも無くホムンクルスの眼だ。
常に何かに飢え、渇望しながら、正当な努力には耐えられない濁りきった眼。
ただし、かつてのパピヨンが腐ったドブ川なら、この男は瘴気を放つ底無し沼だった。
「で、君たちはこの私に何を望むのかね?敗残の老ホムンクルス、粉砕された月の欠片に?」「月はまた満ちる…そうおっしゃったのは他ならぬ貴方です」
西山はあくまでも丁寧だ。
礼をわきまえているというよりは老人をあやしているかのような軽薄さがあるが。
「現在、この日本、いや世界中を見渡しても貴方に匹敵するホムンクルスは少ない。我々には貴方の力が必要です。”ヴィクター無き後”の世界を我々が握るために」
薄く笑いを浮かべて言い放つその言葉にムーンは失笑した。
「まだヴィクターは死んでいないが」
「ⅠとⅢ、いずれが勝っても戦団は処分を続行するでしょう。いずれ滅ぶのは明らかです」
「しかしまた大きく出たものだ…我々は夜の眷族、広い世界とは無縁と思っていたのだが?」「ヴィクターのような存在はいくら強力でも所詮制御できない力。台風や地震のようなもの。しかし、ホムンクルスは違う。例えば、良く訓練された軍用犬をホム化させたら?あるいは優れた軍人を」
「兵器としてのホムンクルス、か」
「YES!それこそが我々とスポンサーの望み。軍用ホムンクルスの実用化と量産、それにより世界の紛争をコントロールする力を得ること。これは軍需産業に革命をもたらし、従来のパワーバランスをまったく変えるものとなりうる力です。だからこそ、彼らはいち早く我々と手を結ぶことを選んだ。次代を握るために」
「……アメの軍産複合体かね、スポンサーは」
「そんなところです」
いかにもありそうな話だ。人間がいかに似たような思考しかできないかの証明。何百年も前から変わらない……つまらない話。
「新たに製造されたホムを創造者に従わせることは難しくない。貴方のような主を持たぬ『旧き者』のような自主性はこの際不要ですから、必ずしも人間型である必要も無いですしね。」
西山をあくまでまっすぐ見ずにムーンが聞く。
「そこで私は何をすれば良いのかね」
「具体的には、錬金戦団の壊滅。それが第一の任務となります」
「言うは安し、だ。彼らもまた、各国政財界と繋がりを持っている。それを断ち切って我々を選ばせることができるのかね」
「人は安楽なほうへ流れるもの。戦団の内部とて例外ではありません。ホムと直接戦ってきた戦士達はともかく、経済的な保障を与えてきた実務・経済部門には不満が燻っている。ヴィクターの「裏切り」が嘘であったことを知ってしまった者はなおさら、ね。彼らを懐柔するのは難しくない……さすれば」
「錬金の戦士たちは活動もままならなくなる。そういうことかね」
「イラク戦で使用された「ジェノサイド・サーカス」を始め、彼らが聖なる武器とする武装錬金が汚れた目的のために使われたのも一度のことではない。戦士たちはともかく、上層部については、実の所メンタリティは我々とそう変わりはないのです」
「……で、私に君とスポンサーは何を望むのかね?質問にはまだ半分しか答えていないが」「……旧き者としての貴方、ムーンフェイスの真の力をお借りしたいのですよ。
「真の力?」
「私は知っています……貴方にはサテライト30以外に、もうひとつの力があることを。そのために用意したのがこれです」
一枚のリスト。そこにはラテン数字のシリアル№が羅列されていた。
その数、実に三十。
「……」
「三十の核金……此れを持って、貴方には彼ら、錬金戦団の殲滅をお願いしたい」
初めて、ムーンフェイスは西山の正面を向いた。
名状し難きその表情が歪み、やがて爆発する。
「ふ、ふははは……はははは!面白い、実に面白い!!」
ひとしきり笑ったあと、ムーンフェイスは再び横を向いた。やや揶揄するように尋ねる。
「私一人に働かせるつもりかね。君も見た所かなりやれそうだが?」
「僕の能力はある人物にしか使わないと決めているんですよ」
「ほう?」
「もし生き延びていれば……ヴィクターⅢは僕が始末することになるでしょう。ある理由から、ヴィクターⅢは僕だけは殺せない。そういう状況になる筈です」
「君の能力というのはヴィクター用なのかね」
「違います」
西山はゆっくりと薄い頬を釣り上げて笑った。その笑いはムーンですら肌寒くなるもの。
「――その”つがい”用です」
純粋な悪意。

いつのまにか夜の帳が下りていた。
「少し歩きたいのでね。失礼する」
「月夜の散歩、ですか」
「――そんなところだね」

どこかふわりとした足取りでムーンは夜の公園を歩く。
シン・リジィの「ダンシング・イン・ザ・ムーンライト」が流れていればちょうど良い。
そんなことを想う。
今日の会話を思い出す。
「純粋な悪意は愛に似ている……」
所詮、その程度、感情に躍らされる程度の心だ。
結局、あの青年も老成ぶりは上辺だけということか。
とはいえ、話自体は面白い。
先行きについてはムーンフェイスは楽観していない。軍産複合体がひとたび技術を手に入れたのち、西山やムーンのような「独立型」ホムを生かしておく可能性は低いと思われた。
我らの力もまた、我らだけのものではない。
利用され、そしていずれは捨てられる運命だろう。
あの若造にはそれが判っていない。
が。
退屈を紛らすにはちょうどよい。
何より戦団とまた戦えるのだ。
こないだのキャプテン・ブラボーとやらとの戦いは良かった。
久しぶりにスリリングな気分を味わったものだ。
バタフライとの100年は楽しかった。
組織が徐々に拡大していく様と滅びに向かう様、双方を見届けられたのだ。
欠けたる月もいつかは満月に変わる。
しかし、胸のうちの欠落は埋めようも無い。
永遠の命を手に入れてから一番長く付き合った男だったが、バタフライは結局の所ヴィクターしか見ていなかった。
彼ムーンフェイスは良き相談役ではあってもバタフライにとっては友ではなかったのかもしれない。
しかし、彼にとってはそうではなかったのかも知れない。
「パピヨン君……最後に会った彼は若いときのバタフライと同じ眼をしていたねえ」
いずれ彼もバタフライにとってのヴィクターを見つけるのか。
あの少年、ヴィクターⅢがそうなのか。
だとすれば、私、ムーンフェイスはいかに彼らに対峙すべきなのか。

とりとめない連想に支配されながら、彼の散歩は続く。
柔らかな月光の元で。


End.

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