創作「桃泉学園事件簿(5)」

「夏目小太郎/蒲原千鶴」

病院の外はじわりと暑い。午後の光は容赦なくアスファルトを加熱する。
この時期とは思えないほど強い日差しを浴びて、副会長の仮面は歪つに光っていた。
「……その仮面、どこでも外さないんですか?」
「ああ、僕は対人恐怖症なので、これがないと人前でまともにしゃべれないんだよ」
「そんな……嘘でしょう?いつも普通に人前で会長とかと話してるじゃないですか」
「この皮一枚あってこそ、さ。それはともかく、僕はここで失礼するよ」
ずっと口調が変わらないのでどこまで本気なのか判断がつきかねるが、今日の用件がとりあえず終わったなのは間違いないらしい。
副会長自身はもう一度下村さんに会って連絡事項を伝えてから帰る、というのだが、何かずっと隣で機嫌の悪い俺の幼馴染に気を使っている風でもあった。
居心地悪いのかな、と俺が思ったのを表情で読み取られたか、副会長は耳元に顔をいきなり寄せて囁いてくる。
(夏目君、彼女は大切にしたまえよ)
(……はい?)
「今日はつき合わせて悪かったね。あとは心置きなくお二人の時間を楽しんでくれたまえ。それじゃ!」
しゅたっ、と手を上げると、副会長はきびきびとした足取りで中に戻っていった。
……なんか激しく勘違いされてるような気がするのだが。
ちらり、と千鶴を見るとやっぱり苦虫を三匹ぐらい噛み潰したような顔をしている。
(一匹は俺で後二匹は甲斐さんと副会長かな?)
などといらぬ不安を喚起させる顔だ。
その千鶴が俺につい、と向き直ると否応無く緊張してしまう。正直びくびくものだ。
「小太郎」
何だろう。勘違いするなとかバス代払えとかアイス奢れとか言われるのだろうか。
「何だ……いや何ですか?」
「何を怯えているのだ?……この件、悪いが私は手伝わないぞ」
……いまさら何を言い出すかと思えば。
「ああ?そりゃ当然だろ。サークルへの依頼だし、お前の手を煩わせる気はねえよ」
しかしそう言うと千鶴は一層むっとした顔になる。
君の発言は私にとって不本意だ、と言わんばかり。
いやむしろ俺の存在が不本意だ、と言いかねない顔だ。
何故だ俺。この状況は理不尽だ。
「だが、実際の所大丈夫なのか?動けるのは結局君一人ぐらいのものだろう。柳先輩が調査が得意とも思えないし」
確かになあ。あの人地味にサークルの中で一番短気だし揉め事もケンカも大好きだしな。でも、まあ。
「まあ、その……何とかなるさ、多分」
と言うか、なんか千鶴は俺を心配してくれてるように聞こえるのだが。
そんな筈無いよな、この厳しい幼馴染に限っては、とその時は一瞬で疑問は流れていってしまう。
「……その、本当に助けはいらないのか?君がどうしてもと言うなら、手伝える人間に心当たりが無くもないのだが」
後から考えれば、その時の千鶴はちょっとだけ、頬が赤くなっていた気もするけど。
その時の俺は調査をどこから手をつけていいものやら、という悩みで殆ど上の空で。
「……ああ?いや、いいよ。いざとなれば雄三や徹に頼むしさ」
と、無造作に返しただけだった。
「……そうか」
だから、氷がぶつかり合う時のような冷たい響きで千鶴がぼそり、とそう答えたときも。
「どうした?なんか俺変なこといった?つか、やっぱ機嫌悪い?」
所詮その程度の返事しか出来なかったわけで。
「……なんでもない。気分も別に害してはいない」
バス停までずーっと、千鶴がむすっとしていた理由も解らなかったのだった。

で。解らないままに、とりあえず付き合ってくれた礼は必要だなあ、とは思った俺だけど。
依然として千鶴の周囲には絶対零度の結界が展開中。
「なあ……俺、何か悪いことした?それとも安請け合いしたから怒ってんの?」
あんまりいたたまれないのでついに聞いてみると、ぐりんといきなり千鶴が俺の正面を向いた。なにやら異様に真剣な目付で、俺に逆に質問を返す。
「小太郎、今日はこれからどうする気だ?」
何か怖い。正直、視線だけで蝿が落ちそうなくらい。
「……どーすっかな?最初は本屋でも寄って帰ろうかとも思ってたんだけどさ。もし……」
「特に予定は無いのか」
何故か、ほっとしたように表情を緩めると質問を続ける千鶴。
「ああ。お前と違って、そんな忙しい身分じゃないし」
「私も今日の午後は予定が無いのだ」
「あ、そうなの?じゃあ……」
どっか涼しいとこでアイスでも食べねえ?と言おうとしたのだけどその余裕は与えられず。
「……もし良かったら、ちょっと服を見たいので付き合ってくれないか」
えー。服ですかお買い物ですか。千鶴さんがですか。
「……女物の?暇だからべつにいいけど……お前の買い物に付き合うの?ひょっとして荷物持ち?」
「嫌か?……と言うか『私が』服を見ると言っているにも拘らずなぜ君は女物かどうかを問うたのか納得のいく説明をしてもらおうか」
「はい全然嫌ではありません千鶴さんむしろ荷物持ち大歓迎です」
えーと、頼むから無言で鞄を振り上げないで下さい。はい荷物持てと言われれば持ちますともはい。休日だというのにこいつは学生鞄に小物を入れて持ち歩いているらしく、当然鉄板も平日と同様に仕込まれているわけで。
「……でも、女物買うのに俺が一緒でいいのかよ?」
と一応聞いては見たものの、すでに逆らう気はゼロの俺。
「……一人で行くのは……その、なんとなく恥ずかしくて」
でも、あの千鶴がどこか気まずそうにそう言うのを聞くとそんなもんなのかな?とも思うので、まあ別に嫌というわけでもない。
「漢一人でパフェ食うのが恥ずかしい、みたいなもんか?」
「例える方向が違う気もするが……まあ、そうだ」
甲斐先輩が周囲を一切意に介さず一人でジャンボパフェ食ってたのを見た記憶はあるけど。
でもまあ、あの人はちと特殊だし、何より甲斐先輩を持ち出すとまた千鶴が怒ると思ったのでそれ以上は突っ込まないことにした。
「解った。今日の礼代わりっつーことで付き合ってやるよ」
その時は本当にその程度にしか思っていなかった俺をじっと見て――というかしばらく睨んでから千鶴ははあ、と何かに失望したような溜息をついた。
「君は……どこまで解っているのかな」
後から思えば深い穴を自ら掘って埋まりたくなるような話だけど。
当時は色々な疑問が俺の頭に充満した状態だったので、彼女のその言葉も、脳内を飛び交う疑問符をさらに増やす程度の印象しかなかったのだった。

――さて、そんな訳で俺たちは駅前のこじんまりとした商店街に来ている。
千鶴は俺の前をずんずん歩いて服屋に真っ直ぐ向かう。
ほとんど振り向きもしない。
俺がばっくれる可能性はあまり考えていないらしい。
まあ、怖いからしないけれど。
で、たどり着いたアーケード街の一角にあるその店は、可愛くてファンシーで小奇麗で。
正直千鶴には似合わないような――と思った瞬間、表情を読まれた。
「今何か考えただろう」
「あー、道着屋とかスポーツ用品店じゃないんだって……ぐえっ!」
水月に一発見えないパンチが。
「君はしばらく黙っていろ」
「……声も……出ねえよ、畜生」
早足でつかつかと入っていく千鶴に続いて俺が入店すると、さっそく彼女は店員と何やら話していた。耳に入ってくる会話から察するに、どうやら事前に目星を付けていた品があるらしい。
ややあって千鶴は、一礼して店員から離れると一方的に俺に告げる。
「今からいくつか持ってきてもらうから、一寸待っててくれないか」
別にいいけども、いくつもキープしてあったのか、とちょっと不思議な気分になる。
正直普段の千鶴らしくない。
しかし新製品コーナーを何やらうろうろと物色しているのを見るに、千鶴は幾分本題に入るのに躊躇しているようだ。
……まあ、思うに恐らく恥ずかしさと目的を天秤にかけているのだろうが、しかし、結局新たに目に適うものも無かったらしい。
一旦立ち止まった後しばらく固まっていたが、そのうち何とか決心がついたようで。
すう、と息を吸った後顔を上げた千鶴はおもむろにもう一度店員のところに歩いて行く。
きりきりと音が聞こえてそうな動作だった。
(……難儀だなー)
とか俺が手持ち無沙汰でいた所に帰ってきた彼女は、顔が隠れるほどどっさり服を抱えていた。
「……何着あるんだよ」
「とりあえず十着だ。今から試着するから待て」
なんか千鶴の表情はもやもやと冴えない……というかもじもじしているように見える。
嬉しいことのはずなのに何処か屈託しているような。
「千鶴、ひょっとして体調悪いのか?」
「……何故そんな事を聞く」
「んー、何か今日は、やけに女の子っぽくて変……って言いいい痛い!耳引っ張るな!」
「……私は生まれたときからずっと女だ。私自身の意向に関わらず、な。忘れるな」
「忘れてないし覚えてるし忘れないから!あー痛て、千切れるかと思った」
「たまに血を見たほうが、君の根性を叩き直すには良いかもな」
「お前に叩き直される謂れはないぞ?」
「……君に無くとも、私にはある」
「あー?どういう意味だよ」
――答えはなかった。
「ちぇ……はいはい、解りましたよ、お姫様」
「はいは一回でいい」
まあ、とりあえず付き合うしかない俺である。……しかし。
いざ改めて眺めてみると、千鶴は女の子っぽい服も似合うんだな、と俺は思った。
選んできたのはどれも可愛い印象の上下で、非常にしとやかに可愛らしく見える。
無論、イメージや内実との齟齬はともかくとしての話ではあるが、それは当然ながら口には出せない。
「……どう思う?」
「んー、いいんじゃねえの?どれも可愛いんじゃね、服」
なので一応言葉は選んでみたつもりだが、そう言うと千鶴はあからさまに不満そうな顔をした。
「……なんだその気の無い返事は。むむ……ではこっちは?」
「あー……悪いが、そのピンクのだけは流石に似合わねぃたい痛い痛いっ!」
「……似合わなくて悪かったな。どうせ可愛いのは服だけだと言いたいのだろう」
んー。どうやら最初から言葉の選択に失敗していたようです俺。
とはいえ正直、女の子の服のことなんてさっぱり解らないけど。
「……じゃあ、これは……どう、かな」
結局最後に、おずおずと試着室から現れた千鶴が着ていたのは。
「……へえ」
白に水色の縁取りをした夏物のワンピース。装飾は控えめだが色合いは清楚な印象だ。
ただし。
「正直、他のよりスカートに重さが無いし……何か全体的に無防備な感じだが……」
確かに、今までのより薄手だし露出も多めな気が。特に胸元とか袖の長さとか胸元とか。
でも。まあ。正直、今の彼女に一番合ってるかも――素直に、そう思った。
「……うん。でも、いいんじゃね?色も千鶴に合ってると思うぜ。なんか清々しいと言うか凛々しいと言うか」
「ちょっと待て。凛々しいと言う表現は所謂一般的な女性らしさとは相容れないと思うのだが」
そうかもしれないが一番ぴったりな表現でもあるわけで。でもそう素直に言うとまた怒られそうだし。
「……御免、上手く言えない」
というわけで正面対決は回避。千鶴はしばらく胡散臭そうな目で俺を見ていたが、結局横を向いてぼそりと言った。
「……むう……判った。君はこれが私らしいと、そう思うわけだな?」
まあ、それは確かに。単純に綺麗だし似合ってるし。
「……ああ?うん。別に露出が多いからじゃないぞ痛っ!」
「聞いてない。だが……判った。これは、私も良いと思うから」
そう言って、彼女が一旦着替えようと試着室に振り返ったとき。
髪が揺れて、露出した左側の首筋に、一本の赤い線が見えた。
「…………あ」
「……小太郎?どうした?私に何かついてるか」
声を上げてから、しまったと後悔した。
そして服を選ぶのに、何故俺に付いてきてくれ、と言った理由も、何となく判ってしまった。
だけど、今更黙っているわけにもいかない。
「いや……あれ、残っちまってるな、って。今更だけど、本当に、俺」
「……その先は言わなくていい。化粧すれば見えなくなる程度だ」
今日の私が、首まわりに化粧する時間が無かった、と言うだけの話――そう、千鶴は告げる。
だけど、だからこそ俺は余計に判ってしまう。
彼女が動揺しているのが判るから、俺は一層。
――多分、俺の目もまた、あからさまに沈んでいたのだろう。
「……だ、だから、その話はなし!黙るな!そんな顔をするな」
千鶴にそう言わせてしまう自分が情けないけど。
だからと言ってここでさらに沈むのはもっと駄目な奴だと思うから。
「……ああ。解った」
表情を何とか回復させて頷く。
「……まったく」(何のために私がこんな服を選んだと……)
はあ、と溜息をついた後の千鶴の独白は、当時の俺には聞こえなかった。
結局それからはほとんど会話は無く。
お互い、何かもやもやした気分のまま、服を買って俺たちは店を出た。
「……アイスでも食って帰るか?」
空気を変えようかと誘っては見たものの、どうも千鶴も沈潜している模様で。
「……ああ」
どうもいかん流れだなー、と自業自得に頭を抱えそうになった、その時。
「……あれ?先輩と千鶴義姉さんじゃないですか」
このときばかりは、声の主が救いの神に見えた。


「夏目小太郎/蒲原千鶴/富永由宇」

普段はむしろ疫病神に近いこの男は。
「……由宇か。こんな所で会うとは珍しいな」
「お二人とも、それは僕の台詞ですよ。デートですか?」
「断じて違う」
言下に千鶴が否定すると、ふーんと鼻で笑って今度は俺を見る。
しかし俺が千鶴に同意すべく無言で首を振るとあれ?と言う顔になった。
「……へえ。すると義姉さんの持っている荷物から類推して、先輩は買い物に付き合わされたという所ですか。ご愁傷様です」
「……別に無理はさせていない。発言は正確にするものだ、由宇」
「はいはい。義姉さんの言う通り、という事にしておきますよ。先輩もそれで宜しいですか」
「別に宜しいけどな……お前も相変わらずなのな」
富永由宇。
桃泉学園中等部三年。隣町の空手道場「楓林館」の跡取りであり、千鶴とは従姉弟にあたるが、彼はいつも千鶴を「義姉さん」と呼ぶ。
何やら事情があるようだが俺はよく知らない。
彼の専門は空手だが昔は剣道もやっていたので、小中のころは俺もよく蒲原家の道場で一緒に稽古をしていた。
当時から何故か懐かれて今に至る。常に俺を先輩と呼ぶのもそれが主な理由らしい。
離れてみればちょっとぞっとするほどの美少年、しかも文武両道を地で行く男だけに、学園内外を問わず彼のファンは多い。
しかし、俺は知っている。こいつには致命的な問題があることを。
「いえいえ。大好きな夏目先輩と怖い怖い千鶴義姉さんの仰ることですから、一言半句違えることなく正確に記憶しておきますよ」
「小太郎と私で随分評価に差があるようだが……まあいい。火曜日の稽古で会おう」
「そういう事を言うから義姉さんは怖いんですって。まあ、無論僕の愛情は第一に先輩に奉げられていますが」
そう。問題というのは要するに由宇のこの普段の言動及び行動にある。
何故かこいつは、俺のことが(主として性的な意味で)大好きらしいのだ。正直な所困る。
「悪いが、奉げられてもな……」
「困りますか?こんな便利な後輩は居ないと思うんですけどねえ。ボディガードからパシリ舎弟、性欲処理係に至るまで幅広く対応可能なのに」
「正直どれも間に合ってる……じゃなくていらねえ」
特に最後のは例え間に合ってないとしても断固として拒否したいところだ。
……しかし今日ばかりは、こいつにちょっとだけ感謝してもいいかな、と思った。
かといって、要望に一切応えるつもりは無いけれど。

「由宇に誤解されて言いふらされても困る。私は先に帰るぞ」
「え……ああ、そうなの?」
いきなりそう切り出した千鶴に俺は戸惑ったのは事実だが、正直、由宇が絡むと千鶴がこういう態度を見せることはよくあった。
「おやおや――義姉さんもどうやら相変わらず、みたいですね?」
大抵、いつもこんな感じで由宇が軽口をはさむのでなおさらだ。
「その嫌らしい眼で私を見るなといつも言っている筈だがな、由宇。小太郎、今日はありがとう。助かった」
「いや、別に礼を言われるようなことは――」
と俺が返事をするより先に、千鶴はすたすたと服の入った紙袋を下げたまま歩き去ってしまった。
もう振り返りもしない。
「……お前を視界にすら入れたくないようだぞ」
「やれやれ……僕は義姉さんによくよく嫌われてるみたいですね?」
「お前と千鶴の間に普段どんな暗闘があるのか知らんが、巻き込まれたくはないな……」
「何言ってるんですか、元はといえば……っと」
何故意味ありげに黙る。
「何だよその含みのある言葉尻」
んー、と由宇は首をかしげて考え込んだあと、いつもの爽やかな笑みを浮かべて俺に宣言した。
「教えたげません」
「お前、そのうち殴るぞ」
「先輩からの拳は全て愛の鞭と思って受け止めますよ。どうかご存分に」
「その誤解は嫌すぎるな……」
こんなやり取りもいつものことで――と、そこで俺は唐突に思いついた。
何も、徹や雄三に頼らずとも。
ここに一人進んで手足(パシリとも言う)になってくれる男がいるじゃん。
それも非常に優秀な。
「……由宇。一つ聞きたいことがある」
「僕か先輩の性欲処理に関わることなら、喜んでお伺いしますが」
性格にはかなり難があるけれど、背に腹は変えられない。
「お前、中等部の鷲尾さんって知ってるか?誘拐されたとかいう」
「そりゃ同学年ですし、彼女はわりと可愛かったので顔は知ってますよ。まだ見つかっていないようですね――それが何か?」
「……じゃあ、去年、麻薬をやってた奴がいた、とかいうのは聞いたことがあるか」
「……夏目先輩は、何を知りたいんですか」
「退学になった奴と、鷲尾さんに関係があったかどうか」
「どうですかね?当時は三年と二年ですし……ああ、でも面識くらいはあったかも」
どこでだよ?と聞く俺に由宇は記憶を手繰りながら答える。
「麻薬をやってた、と噂された先輩は確か演劇部の部長だったんです。鷲尾さんは演劇鑑賞が趣味だったそうですから、校内での催しとか見に行っていたかもしれません」
「……演劇か。ちょっと接点としては弱いな」
「先輩は、鷲尾さんの誘拐もしくは失踪が、麻薬の話と関連していると考えているんですか?」
「あー、今ントコはただの当てずっぽうさ。ただ、不穏な話が次々に起こってるんなら、個々の関連を疑ってみるのも悪くはないだろうってとこか」
「……確か、高等部でも一人行方不明になってますね。図書委員の人でしたか」
「お前、自分の学年でもないのによく知ってるな」
「警察ざたになれば誰でも興味は持ちますよ。それはともかく、先輩としてはそっちの人も麻薬との関連を当たるつもりですね?差し支えなければ、何故急にそんな話に興味を持ったのか伺いたいのですが」
無論秘密は守ります、と由宇は表情を改めて俺を伺う。
やはりこいつは頭の回転が速い。外見はともかく口は堅い男だし、副会長からの依頼を話しても問題はないだろう。
「……その辺の公園でちょっと話すか」
「お供します」

で、経緯を全て聞き終えた由宇と俺は今、市民公園のベンチに座っている。
男の二人連れが、休日の午後に並んでベンチを占領しているのは正直どうかと思うが。
まあ仕方ないだろう。
その由宇はしばらく聞いた内容を脳内で整理していたようだが、ややあってふうん、と首を捻ってから呟いた。
「……上手く容疑圏外に排除された書記と殺されたホームレス、ですか」
「……排除、って何か引っかかる言い方だな」
「ええ。結果的にその下村と言う人は今蚊帳の外に置かれているわけです。他の犯罪を隠蔽するために、別の犯罪の被害者になりすますのは良くある話ですよね」
「しかし、麻薬との関係はシロだったって副会長が保障してるんだし」
「既に起こった犯罪のため、でなくてもいいんです。今後起こるであろう何かのために、誰かが彼を生徒会から遠ざけておく必要があった、としたらどうでしょう?」
「……例えば?」
「例えば、麻薬の売人たちが会長たちを脅すために生徒会室に爆弾を放り込むとします。その時彼が巻き添えを食わないようにするため、とか」
「……その論理だと、誘拐も売人たちが会長たちを脅すために仕組んだ、ってことで下村さんはその仲間、ってことか?で、会長たちはそれを薄々理解しているが俺たちには敢えて黙っていた、と?」
「と言う可能性も有り得る、ということです。副会長は誠実な人のようですが、先輩に全て真実を伝えたとも限りませんしね」
うーん。正直俺は思いつきもしなかった発想だな。
副会長にしろ、下村さんにしろ俺には嘘を付いているとは到底思えないのだけど、経緯だけ見れば確かにそういう想像も出来るのか。
「――成程ね。やっぱ俺より探偵に向いてそうだな、お前」
「どうでしょう?僕は人の善意より悪意の行方に惹かれるほうではありますけどね――」
「……お前、友達少なくないかひょっとして」
「否定できないですねえ。道場主の息子には色々面倒なしがらみもありますし」
大人でも同年代でも、他人の言う事は鵜呑みに出来ない性質ですから、と由宇はあっけらかんと笑う。
「おじいちゃんにはこの年でもう婚約しろとか言われるんですよ?まだ人生の墓場に入る気はないですし、そもそも僕の理想はアンディ・フグなんですけどねえ」
何ですかこの老成した中学生は……とも思ったが突っ込むのはそこではなく。
「……一応確認するが、それは武道家としての理想だよな?」
「いいえ、勿論生涯の伴侶としての理想です。当然でしょう?」
えー、ガチですかそうですか。
「……お前、今まで何人女の子泣かせてきた?」
何人をこの笑顔のまま地獄に突き落としてきたのだろうか。
「どうでしょう?みなさん物分りの良い方でしたよ。まあ僕は先輩のことも大好きですからご心配なく。ボディガードは任せてください」
「むしろ俺はお前から自分をガードしたいよ!お前の将来と同じくらい自分の貞操が心配だ」
「まあ、隙を突いて先輩を無力化する方法も多々ありますが、裏技で簡単に思いを遂げるのは本心ではないので」
無敵コマンドの入力より簡単です、と恐ろしいことをさらりと言う。
つーか簡単なのか、と言う以上に無敵コマンドって今時解る奴居るのか。
「……使うなよ」
由宇はにこにこ笑ったまま、俺の呟きには答えなかった。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック