創作「A Change Of SeasonsⅩⅠ」

-ChapterⅩⅠ-

第三章「By the grace of God」
 
起きたとき、外は薄暗かった。
匠は愕然とする。今は何時だ?携帯を見た。
復活祭(イースター)の当日。
しかも――夕方、だと?
「馬鹿な……丸一日寝てたのか?」
跳ね起きて部屋を見回すと、寝室の扉を開ける。
――弥生は、居なかった。
ベッドの上は、綺麗に片付けられていた。
「――何故」
テーブルの上。昨日のものとは別に、また手紙があった。

 知人に会ってきます。
 明日までには、かならず帰ってくるのです。
 待っていてください。
                   灰村 弥生
 追伸
 ごめんなさい。
 後遺症は無い薬と聞いています。

手紙のそばには、白い錠剤の小瓶があった。
「睡眠薬……か」
予めポットの茶に溶かしてあったのか――しかし何故、そこまでする?
匠の耳に、弥生の体術の師である使徒・真理王の言葉が蘇る。
「彼女は体の平衡をとるのは上手いのよね――だけど、心の均衡を保つのは下手よん」
いつもの人を食った口調で、真理王は以前そう言っていた。
そして、あの基底聖句集。最終頁は破り去られていた。
恐らく弥生がやったのだろう。捨てたか、自分で持って行ったか。
何故――と考えて、ようやく詩の題名と意味に思い当たる。
そして、過去にそれを詠った人とその声を同時に思い出す。
「トマス・ハーディ……ね。惑――そういう事か」
弥生への警告か、匠への注意喚起だったのか。
しかし弥生はいずれにせよ、選んだ。
匠をあくまで巻き込まないように。この情けない男を守るために。
たった一人で、戦場に立つことを。
もう一度弥生の寝室を確認すると、屑かごにくしゃくしゃの便箋があった。
溢れるほど大量の書き損じがあった。恐らくは、テーブルにあった手紙の。
何度も、何度も、文章に悩んで書き直した跡があった。
悩んだ末に、あの文章を選んだ弥生の事を思って、匠は大きく息を吐く。
「――馬鹿野郎」
こんな状況を受け入れてやるものか、と匠は思う。
携帯を見直す。アラームが無音に変更されていた。これも弥生の仕業だろう。
見ると着信十三件、メール二件。着信は全て非通知。恐らくこれは夜羽。
メールの内容もそれを裏付けていた。弥生と午後から連絡が取れないという。
一応、返信を入れておく。恐らく弥生は先行しているはず。
夜羽のことだ、戦場予想区域の周辺は抜かりなく監視しているだろう。あるいはすでに弥生と合流しているかもしれない。
だが、彼女には見届ける以外のことは出来ない。それ以上の手助けができるのは、一人だけ。
「生憎、馬鹿はお互い様だ――弥生」
彼女も、匠も、恐らく不器用で愚かなのだろう。
勝利のために何をすべきかなど解りきっているというのに、躊躇いから逃れられない臆病さと勁さのアンバランス。
自立心と表裏一体の依存心。
だが今はもう、頭の中から臆病の虫を追い出す時だ。別の蟲を呼ぶ必要があるから。
たとえ、記憶には恐怖しかなくても――今の自分には、それを押し殺す理由がある。
夜羽から先日届いたピルケースを開ける。
ASD。スティグマタがしばしば使い捨ての能力者や、ゼカリヤ、ネヘミヤの最前線で戦う死兵に与える反応加速薬(オーヴァードライヴ)。
前線では単にアシッドと呼ばれることが多い。
それは一時的にスティグマの賦活性を高め能力を無理やり引き出すためのいわば燃料。
感覚を研ぎ澄ましAE由来の能力賦活を増強する効果は確かだが、一方でその代償も大きい。
心身双方の負担は常に心臓や喘息の発作に苛まれながら戦うに等しく、しかもASDには強い習慣性があった。
禁断症状が出ると非道い嘔吐と頭痛、腹痛、そして感覚消失や局所的な感覚増幅といったさまざまな障害に襲われる。過去、匠は何人もそうした連中を見てきた筈――ゆえに、葉月に忠告したのは全くの本心からでもある。
しかし、使う目的があるのなら匠には躊躇う理由など無い。規定量のカプセルを飲み込む。
そう――真理王はこうも言っていた。
「彼女の心には、まだ支えになる足が必要なのよん」
ああ。そうだろうとも。だから。せいぜいまともに動いてくれよ――俺の身体。
全てが終わるまで、匠が弥生の足でいられるように。
カプセルは速やかに溶け、ASDを体内に散らしていく。カフェイン並みの吸収の速さだ。
血流が全身を駆け巡る感覚。動悸のごとく心臓は早鐘のように脈を刻むが、徐々に規則性を取り戻していく。
かつての記憶の断片と再学習によって得た知識を混ぜ合わせ、心を整理する。
「はあっ……」
すっと息を吸って、ゆっくりと吐く。――やれるか。
唱える言葉は基底聖句の一節。
「灰は灰に」
どくん。脈が又速くなるが、構わず続ける。――やれる。
「塵は、塵に」
全身の肌が泡立つ。足裏の接地感がどんどん希薄になっていく。そして――
「――封鍵解除」
その言葉を唱えた瞬間。わずかに、傷痕から光が沸いたような気がした。
しかし、これは自らを「能力に没入させる」ためのあくまでも儀式。
「信認せん(AMEN)――来たれ破壊者、疫病と蝗の王。焔集いて疫を成し、罪人共に殲滅せよ」
ただの儀式に過ぎない。
「贖罪の炎奈落より来たり、幾千の飛蝗と成りて――我と我が罪焼付け、罪人共に葬送せよ」
そこに奇跡など無い。歓喜も無い。あるのは喚起される力の造形(かたち)のみ。
手の甲の、傷痕の表面を焼け付く痛みが蠢いている。ちりちりと、全身の毛を静電気が走っているかのごとき感覚が覆う。おぼろげながらどこか懐かしく、同時に恐ろしい感覚。
敬虔な信仰者が見れば、それを十字架のイエスが味わった痛みを彼が再現し、その身に受けたのだと解釈することも有り得るだろう。だが、それはあくまでも聖痕(スティグマ)として焼き付けられた微細機械細胞――ナノマシンセルの自動的な反応の一つに過ぎない。
言ってみればツールでプログラムを解凍しているようなものだ。しかも、そのプログラム自体は既に半ば破損しているときた。立ち上げたところで、まともに動くかどうか。
――せいぜい三十パーセントという所か。熱を帯びた両腕と甲の傷痕が今の段階を匠に教える。
だが、とりあえずは充分だ。
贖罪者イザヤ。その証――未だ心の奥底にある、かつての劫火の残り火。
己の過去を守るためにではなく、ただ現在を守るため。
それだけで、柊匠はまだ戦える。
待つだけの自分も、臆病さに立ち止まるのも、もう真っ平だ。
それに。弥生には直接向かい合って言ってやりたいことが、山ほどあるのだから。
匠は歩き出す――彼女と、彼の戦場へ。

――灰かぶりの姫は、ガラスの靴を履いた。
では、弥生が履くのは何?
彼女の足はまだ小さいけれど、もう子供用のスニーカーは履けない。
年齢に不相応なハイヒール?それとも、姫と同じガラスの靴?
願わくば――御伽噺と同じく彼女に合うサイズの靴でありますように。
夜羽は、モニター越しにその時を待つ。
戦場には既に二人の姿があった。だが、そこに居るべきもう一人の姿は無い。
夜羽は怒りと失望に胸を灼き、歯噛みしながら、それでも思う――願わくば。
王子が例えどんな腑抜けだろうと。
彼女を迎えに来ること、それだけはどうか間に合って――と。

本来は雑草と埋め立ての残土、打ちっぱなしのコンクリ。ただそれだけの空間のはずだが、今夜は騒がしい。
密集して停車している数台の特殊車両とそれに接続する調査機器の群れ。
加えて奥には数台の投光機が戦場を照らしている。
照明の中に影為すは二人。
互いが互いの眼を見据え、揺るぎ無く立つ。
本来緊張感溢れる光景のはずだが、少女は「こんばんは」と礼儀正しく、ぺこりとお辞儀をする。
見た目は至って平静だ。
「あ……こんばんは」
少年もつられてつい丁寧な返事をしてしまう。正直、調子が狂いそう。
「日本語、お上手なのですね」
いや――まあこんなものだろう、とレインは気持ちを切り替える。
心を落ち着けるには軽口も悪くないし、もともと無駄話は嫌いじゃない。
「あー、ジャパニメーションや昔のトクサツが大好きでさ。トクサツのヒーロー物ではこんな場所、よく撮影に使われてたよね」
弥生はよくわからないという顔で首をかしげ、答える。
「すみません。あまり見た事がないもので」
「あ、そう」
レインは少々落ち込んだが、気にした風は見せずに続ける。話を進める必要があった。
「確認するけど、降りる気はない?」
弥生はまっすぐレインの眼を見る。
「そちらは?」
迷いの一切無い、澄んだ瞳。それ自体が明確な答えだった。
「……残念ながら」
ああ。レインには最初から判っていた。彼女はきっとこういう人間だと。
だから、残念なのは本当だ。
「では、お互い様ですね」
「仕方ないね。たぶん痛い思いをするよ?ベビーフェイス」
「……それもお互いさま、です」
さて、お互い様は「痛い」か「童顔」か――答えは、これから出るだろう。
互いの間の静寂が張り詰めていく。

……ちりん。
どこかで、柔らかな鈴の音が聞こえた。
――同時に、二人は動いた。

埋立地に続く道路。廃棄コンテナがいくつも積み重なり、道路わきで門のごとく聳え立っている地点があった。
道はそこで封鎖されているようだ――検問の代わりということだろう。
車の速度を落としゆっくりと近づくと、通行止め標識の前、おぼろに人影が見えた。
車を止めて近づくか突っ切るかと思ったものの、匠にその暇は与えられない。
一瞬、人影がぶれる。
同時にひゅん、と風を切る音が――現実に聞こえるはずもないその音が、戦慄とともに脳内で再生される。
やばい、と思った瞬間――匠は車外に飛び出していた。
「――――!」
目の前で光が閃くと同時にボンネットに何かが突き刺さり、切り裂いていく様を匠の目に焼き付けた後――車はあっさり爆発した。油とプラスチックと繊維が焼ける匂いの中、転がって衝撃をやりすごしつつ匠はその光景について考える。
「射手(レラジエ)の印形か――いや、違うな」
印形(シジル)は教会魔術(アルス・マギカ)における式の起動を司る聖符(アルカナ)によって顕現する、神の力の表れを象徴するものとされている。ただし、スティグマタ的な理解においては、AE(アストラル・エコー)――「残響」を封じ込めた聖符は能力者の力を増強したりあるいは能力を持たぬ一般人でもAEを利用可能とするために使われるツール――聖別兵器(パラダイム)である。故に、魔道書に描かれているような煩雑な儀式はあまり重視されない。
いわゆるヨハネ福音書の冒頭の如く「初めに言有りき、言は神とともに在り。言は神なり。この言は初めに神とともに在った」――その通り、ただ一言でも力を持ちうるがゆえに、鍵たる呪式の起動コードさえあれば予め「そう在るべく設定された」印形の起動は可能である。
教会魔術に欠かせない基本七十二印形を記した「ソロモンの小鍵」は今なお残響を保持する真の魔導書の中でも比較的ポピュラーな転写原版(アーキテクト)であり、現在最も完全な写本はヴァチカン最深部の「七鍵図書館」によって管理されているが、写本は能力を確立した者にとっては各人の喚起力を固定化するためのカタログのようなものとして働く。そして義の教師(マギステル)はスティグマタにおいて能力者の育成と管理を担当する贖罪者の通称であり、一般に教会魔術(アルス・マギカ)のエキスパートでもあった。
すなわち、義の教師とは自らの喚起力と、写本が固有に保持するAE力場の残響(かたち)――すなわち印形を応用することで本来能力を持たない者、あるいはAEを保持してながらそれを外に向けてかたち造ることが出来ない者に、印形の使い方もしくは能力の顕現方法を教育し、時には焼き付ける者であるといえる。
リアが優れたマギステルであることはすでに聞かされている。
故に、胡桃割り以上の印形を持つ強敵が連中に居ても疑問は無かったが――さて、この相手はどうか。
「まだローンが残ってたんだがな――まあいい、あとで肩代わりさせてやる」
腹は立つが頭はまだ冷静だ。
悪態と共にポケットから掴みだしたのは、ひしゃげた紙巻き煙草の箱。
「――深淵(タルタロス)に潜みし奈落(アビス)の主よ、汝に命ず」
言葉が紡がれると同時に、箱は何処より生じた火に包まれ。
「来たれ飢餓の蝗群(エクセルキトゥス・カークス)、殲滅の焔!」
――次の瞬間、全方位に飛び散った。
触媒を介して形為す意志ある炎、それが匠の能力。
灼熱の蝗として顕現するそれを「飛煌(カークス)」と呼ぶ。
かつての「アバドーン」がもっとも良く用いたかたちがこの「飛煌」だった――いわば、匠にとっては基本中の基本。
それは文字通りヒトの体を食い荒らし火と熱によって侵害する。
相対する影も、本来ならそうなる筈だったが――しかし飛来する何かによって炎は吹き散らされる。
投擲武器。巨大かつ――鋭利!
認識した次の瞬間、頭上を風を切る音とともに閃きが行き過ぎる。
「――胡桃割りより、どうやらタチが悪いか」
闇の中から、一人の男が現れた。
「左様――初めてお目にかかる――タクミ・ヒイラギ」
一見したところ、中東やオリエントの出身と思わせる顔。髭を蓄えてはいるものの、まだ若者のようだ。
その印象の通りに若々しい――しかし同時にどこか厳粛さを感じさせる重々しい声で、男は宣言する。
「いきなりで悪いが――ここから先は、通行止めである」
白い神父の平服を身につけたその男にみなぎる自信も、吹き付ける圧迫感も一介の枷徒のものでは有り得ない。
――即ち。
「贖罪者か――何処の所属だ?」
「贖罪名『罪禍の刃』といっても貴公は知らぬだろうな――某の名はグラウディン・ダナート。ネヘミヤ第三庭に属しておる」
若者は古風な言い回しで自らの所属を名乗った。成程、と匠は腑に落ちる。
贖罪者イザヤにおける対魔部門――浄化部隊ネヘミヤ。
魔と戦い、討ち滅ぼすためだけに存在する、贖罪者中の言わばエリート部隊。
「元々の任務は屍族狩りか――何故こんな場所に居る?」
「左様――その質問には任務の一環である、とだけ答えておこう」
あくまで礼儀正しく、青年は答える。
「――貴公とサラザールの戦いは、某も以前より耳にしていた。民の巻き添えを何より嫌う我らが使徒が、敢えて民が居る中での抹殺を指令せざるを得なかった――それほどの化物をぎりぎりまで追い詰めたのが貴公だと。一度会ってみたいと願っていたが――ふむ、やはりサラザールに能力を大幅に殺がれた、というのは真実であったか」
やや失望したように、グラウディンは嘆息する。
「この程度の蝗では――猫の額程度の土地ですら焼けまいに」
「やってみなけりゃ、わからんさ。しかし、使徒が巻き添えを嫌う、ときたか――はっ」
「ふむ――何故嗤う?」
奴等が――使徒長パウロが。第一使徒ペテロが。
彼らが代表するスティグマタと言う組織自体が、真実巻き添えを嫌うのなら。
――ならば何故、あの村は消え去らねばならなかったのだ。
あの無辜の住民は死なねばならなかったのだ――いや、そもそも何故サラザールのような存在が生まれたのだ?
「――お前の出身は何処だ?」
「シリアのダマスカスだが――それがどうしたと?」
「――なら、あんたはマロン派から来たのか?それならムスリムには同情より憎しみのほうが大きいだろうな」
あの村の住民は、殆どムスリムだった。サラザールにとっては彼らがキリスト教徒だろうとムスリムだろうと喰らう対象にすぎない、と言う意味で同じだったが――使徒にとっても踏みつける対象に過ぎない、という意味では同様だったのだ。
「――そのような質問には、答える必要を認めぬ」
マロン派のキリスト教徒はレバノン、シリアなどに多く、イスラム圏の中で西方キリスト教会の援助を常に必要としていた。そこで生まれた能力者ならば、当然それなりの屈折は抱えているだろう。
「さしずめ、教派を守るために志願したか――それとも能力ゆえにスティグマタに売られたか。どっちだ?」
「……貴公は、某を怒らせたいのか?」
「使徒どもの考えを無条件で受け入れてるのが、俺には可笑しいだけだ――怒りたきゃ怒れよ」
「神に従い、使徒に従うのが贖罪者であろう――某を怒らせて平常心を奪うつもりかもしれぬが、生憎貴公を殺すつもりは最初からない――本気で戦えば貴公の首は確実に落ちるが故、な」
「――随分な自信だな」
「ネヘミヤに所属しているからには、某にもそれなりの裏づけというものがある――そう、例えばこの刀だ」
彼が持つその刀は中世風のつくりだった。繊細というよりむしろ無骨という表現が似合う。
片刃のそれはアラビア風の湾刀というよりもう少し昔のローマ風、あるいはダキアの蛮族が使っていた刀剣に近い――成程、さっき車を切り裂いた後、頭上をかすめていったのはこれか。
「聖別兵器――いや、違うな。真正の聖遺物か」
「ご名答と言っておこう。元々、この刀は十一世紀のダマスカスで鍛えられた。一説によれば、材料はエデアの旧跡から掘り出された鉄塊あるいは隕鉄であったと言う」
当時はよく出来た普通の刀にすぎなかったそれは、とある聖者の血を吸うことによって聖遺物となったのだと、そうグラウディンは誇らしげに語った。
「聖者――そう、聖者だ。タクミ、貴公は少年十字軍を知っているか」
「――歴史の授業で習う程度には」
「では、リーダーだった少年の名を知っているか?彼は奴隷商人に売られ――その後とある地で最期を迎えた。彼の首を落とし、その血に濡れたのがまさにこの刀、すなわち『エティエンヌの月』――またの名を『智天使の刃(ラハト・ケレブ)』と謂う」
少年の最後の願い――故郷に還りたい、あるいは神の国へ行きたいという願い。その想いを残響として宿すが故に、その刀はどこに投擲しても常に故郷――すなわち持ち主のもとに還ってこようとするのだという。
「……ブーメランどころじゃないな」
「左様――そしてその由来故に、キリスト者以外がこの剣を振るうことは決して出来ぬ」
異教徒がこの剣を投げれば持ち主のもとに帰ってはくる――ただし、手の内に帰るためではなく、首を落すために。
「これこそ我が贖罪名『罪禍の刃』の由来――そして、この刃を前に生きのびた魔は未だ存在せぬ。貴公とてそこに名を連ねたくはあるまい?」
ああ――この男は腹が立つほど純粋で、真っ直ぐだ。
恐らく、憎しみや恐怖から人を殺したことすらないのだろう。
ただ教義を信じて、故郷の仲間を信じて。使徒を、上司を信じて、今までやってきたのだろう。
そう――かつての自分のように。
「だからこその浄化部隊か――お前の上司は、優しいな」
「……どういう意味だ、タクミ」
「お前は魔を狩る事は出来ても――人間を殺すことは、多分出来ないだろうからな。適任だよ」
「――某を愚弄するか?」
「褒めてるんだよ。だが、俺も後輩に簡単に負けるわけにはいかないんでな――集え飛煌
「――む」
ならば今、俺はそこで敢えて躊躇すまい。
相手が誰だろうとただ戦い、燃やし、灼き尽くす。
例え再び罪を犯し、他者の死を引き受けることになろうとも――ただ前に進もう。
――いずれ奈落に引きずりこまれる、その時まで。
無数の火が粒となって顕れ結合し羽蟲の如く形を成す。
――さあ喰らえ、疫病の蝗よ。風に憤怒を乗せ――喰らい尽くせ。


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