創作「いつでも君は、僕より優しい。(13)」

ChapterⅩⅢ

 エフドは舞うが如く腕を揮う。
 その動作は無駄が無く的確だ。心ある者が見れば美しいとすら感じるだろう。
 こんな状況でなければ僕も拍手しているかもしれない。
「すばしこいねえ、二人とも」
 エフドは嘆いてみせるが、その口調にはまだ余裕があった。
「しかし、アマネ――君はそうやっていつまでイツキに頼るつもりだい?」
「頼ってるって、何のことだい」
「今の状況がまさにそうじゃないか――君はアマネを自分に都合の良い殺人機械としてしか使っていない」
 自分ではなにもせず。
 銃も剣も揮わず、手を汚さない。
 それじゃ教授すら批判できる立場じゃないね、と彼は言う。
「全く、わけがわからないよ――アマネ。君がそばにいて、イツキに良いことなど何もないじゃないか」
 まあ、そう見えるだろうな、とは思う。
 他人から見たら――いや、言い訳はよそう。
 所詮、その通りなのだから。 
「何故、君は厚顔にもそこに居られる。どんな理由が、どんな正当性が君を彼女のパートナーと認める?」 
「――君にはわからないよ、エフド」
 だから僕は、ただそう答え――そしてその返事は、彼の笑いを消した。
「――ふう」
 一度動作を止め、深呼吸する。
 しかし僕たちがつけいる隙はない。
「そうだね――わからない。わからないから――やはり、まず君を殺すしかなさそうだ」
 彼はそう宣言した。
「それで、イツキがどうなるか確かめよう。君の死後も安定しているようであれば、イツキは居てもいい。が、そうでなければ――」
 彼女も後を追わせてあげよう。
 そう言った。
「感謝します、とでも言えと?」
「ボクらは罪人の感情など顧慮しないよ、アマネ」
 そして、彼は聖書の一節らしき言葉をつぶやく。
「ヨシュア記にこうある――主はヨシュアに言われた。『あなたが手にしている投げ槍をアイに向かって差し伸べなさい。わたしはアイをあなたの手に渡す』と」
 だから、と彼は言う。
「君たちは、ぼくの手に渡された贄だ。だから――真珠の意志がどうあろうと――殺す」
 そして再び彼の剣は飛んでくる。
 より広域に、より長い射程で――そしてより速く。
「ああ――そうかい!」
 なんとか返事をしてみるものの、実際困った。
 体力はいつまでも続かないわけで。
 樹はともかく、僕の体力は無限ではないし――それなりに重い服を着ている分、軽装のエフドより分は悪かった。最も、その重さは武器でもあるのだけど。
 エフドの「左手の剣」について改めて考える。
 その実体は剣というよりむしろ不可視の槍――あるいは空間を粉砕する鎚。
 彼は目測で効果範囲を決めた後それを放っている。
 というか、範囲を設定しないとそもそも威力を維持できないのだろう。
 全方位には彼も攻撃できない。
 故に、ここまで僕と樹はエフドを中心においてほぼ対角に位置してきた。
 彼が、常にどちらか片方しか狙えない状態におくこと。
 エフドは水平に剣を放つ場合、直径をあまり大きくできないと見たからだ。
 何故か――大きくしすぎると、地面まで切り取ってしまうから。
 いかに身軽とは言え、エフドは樹と違って飛ぶことはできない。
 足場が悪くなることは気になるはずだった。
 結果、さっきから僕たちが彼の周りを動き回る形が続いている。
 ここまで彼は僕たちを追い立てることに専念していたので、僕たちも彼に近づけないままだ。
 当然、動き回っている僕たちのほうが疲労は早い――ので。
 そろそろ、僕の体力が無くなる前に、決着をつけないといけない、のだけど。
(――樹。位置替え)
(りょーかいなのです)
 一旦距離を取って、立ち止まる。
「……僕たちがこのまま逃げるとは思わないの、エフド」
 左手を後ろに隠したまま、エフドは答えた。
 何時でも剣を振り放てる――そういう構えだ。
「思わないね。逃げればぼくの力は特計本部に向けられる。それくらいは君たちも理解していると思うからね」
「正解だけど――他の人たちを盾にするのって、卑怯だよね」
「――ほう。樹を楯にしてる君もぼくと同じくらい卑劣だと自分で思わないかい」
 僕と樹が改めてとったフォーメーションを看破して、エフドは笑う。
 今度は。
 僕とエフドの間に、樹。
 文字通りの一直線だ。
「思うね。でも止めないよ」
 それが、エフドの剣を封じる第一の方法。
 エフドは、どちらかと言えば僕より樹を優先するから、樹は僕の盾として機能する――かも、しれない。
 しかし――エフドは止まらない。
「しかし馬鹿だな君は。言ったろう――真珠がどうあれ、ぼくは海月を聖霊などと認めないと」
 彼が最初に宣言したとおりに、原則に従うつもりならば――
 このような、賤しい真似に屈するはずもなく。
「いいだろう。ならば――もろともに死ね」 
 エフドが、叫ぶ。
"I have a message from God for you."
(我、汝に主の宣告を与えん――)

 そう――そしてそれが第二の方法だ。
 僕たちが一直線上にいれば。
 かならず、そこを狙って剣は放たれる、のだから。
 そもそも樹は、飛べるのであって。
 今まであえて横方向に、エフドの周囲を回るようにしか動いてこなかったのは――それを忘れさせるため。
 故に剣が放たれた瞬間、樹は上空に飛んで。
 そのまま、急降下してエフドに切り込み――
「よけろ! 樹!」
「バレバレだよ!」
 エフドは、振りきった左手を下ろさず体ごと回転させ――頭上の樹に照準を合わせ、見えざる剣を再び放つ。
 透明な破壊の筒が、樹を危ういところで掠めた。
「ひゃうー?」
 樹はさらに放たれる三の太刀をよけて、エフドの背後にまわる。
「ち――?」
 振り向こうとするエフド。
 ――しかし。
 そのとき僕は、一気にエフドとの距離を詰めていた。
 それは銃声を聴いたから。
 件神無子の銃弾。
 どこから撃ったのか、僕にはわからないが――
 彼女が撃ったならば、それはエフドには必ず当たるのだ。
 故に一瞬、エフドの気は樹でも僕でもなく、外に向いた。
「な……!」
 そして、一瞬でいい。
 樹は離れ去り、僕はその手に何も持っていない。
 ゆえにエフドは、僕の殺害を優先する。
 僕は、徒手空拳のまま彼の懐に飛び込む。
 格闘戦――そう思ったことだろう。
「捕まえようとしても無駄だ、アマネ――」
 エフドが叫んで向き直った瞬間。
「――片鋏」
 黒い霧が。
 刃となって。
 エフドの左肩を、下から大きく切り上げ――肩ごと左腕を切断する。
 黒い塵。霧。
 ただの埃と見えたそれが。
 一瞬にして空間に刃を作り出し――彼を薙いだ。
「――――」
 彼は倒れ伏し。
 僕は、その側に立つ。
「……スクレップの黒い霧に、もう少し注意を払うべきだったね、エフド」
 エフドは左肩の傷に右手を触れ、吹き出す血に混じる感触に気付く。
「……これは、砂鉄、か」
「僕の能力――片鋏(シングルシザー)だよ」
 逃げ回っていたのは、このためでもある。
 空間に、仕事着にあらかじめ吸着させてある砂鉄をばら撒き、一瞬で凝集させうるだけの密度を作り出すこと。
 重い仕事着は、伊達じゃない。
 重さの原因は、能力で吸着させていた砂鉄の刃だ。
 それを維持するには当然ずっと能力を使っていなくてはならないのだけど――問題があって。
 僕がこの力を使うには、外部からの電力が不可欠で。
 充分なそれが無ければ、僕の能力など微々たるものでしかなかった。
 無為相手に何もできなかったのも当然で。
 電気が無ければ紙すら切れない、その程度の電動鋏だ。
 すなわち――樹の存在は、僕の能力にとっては電池でもあって。
 彼女がそばにいれば、力の枯渇もなにも気にせず、刃を振るえる。
 この砂鉄を用いて、どこにでも刃を創り出すことが出来る。
 砂鉄が人を噛む――故にこの能力を「砂噛み」と呼んだ人もいた。
 そう、刃はどこにでも創り出せる。ただし一定の距離を超える場合は、付着させる対象がなければ構造を長く維持できない。
 今回、エフドを斬ったような至近距離でもなければ、人を斬れるような刃は創れない。
 だから――普段は樹の刀がある。
 刃の無い屑鉄、スクレップ。
 鉈のようでもあり、木刀のようでも日本刀のようでもあるスクレップには、そもそも刃がない。
 切断力を与える黒い霧――刃を作り出すのは、僕の力だ。
 ゆえに、樹は「誰も殺さない」。
 彼女は、ただ剣を振るうだけで。
 ひとを殺すのは――僕の殺意であり、僕の刃だ。
 樹と僕で、挟む。
 でも、切り刻むのは、僕の刃。
 だからこその片鋏(シングルシザー)。
 陽性異能者――インヴィクトゥスとしての、僕だ。
「がはっ――」
 血を吐きながらも、まだエフドは死んでいない。
 だが死んでいないだけだ。
 神無子さんの銃弾はどうやら背中に当たったらしい。
 威力が弱かったようでそちらの傷はさほど深くはないようだった。
 しかし、左腕を肩口から丸ごと失い出血は止まらない。
 何より、左手を失ったエフドはもはや能力を使えない。
 それはインヴィクトゥスにとって死に等しいダメージだ。
 勿論治療させるつもりなどない。
 コンスタンたちが近づいてくれば、彼らも殺すだけだ。
 だから僕は、彼の死を傍らで待つ。
「刃……イツキの刃は、全て、君の――」
「そうだよ」
「そうか、全て、逆か……樹は汚れず、君だけが血にまみれていく――それが君の望みか」
 僕は、答えない。
 それが答えだ。
「はは……なんという甘い……邪悪……」
 確かに。
 彼より。真珠より、エイレナイオスより、邪悪なのは――この僕だ。
 樹ではない。 
「……エフド」
「何だ、アマネ」
「君の本当の名を、教えてくれないか」
「……何故、知りたがる」
「忘れたくないからさ」
「敵の事など、忘れてしまえばいいさ」
「何も、忘れたくはないんだ」
「馬鹿だな……君は……その優しさは弱さだ。イツキのことといい、君は――」
 言葉を続けようとして、彼はげふ、と血を吐いた。
「ぼくはエフドだ――士師の一人として死にたい」
「なら、その名で覚えておくよ」
 好きにしろ、と彼は笑う。
「……アマネ。君はずっと、そんな欺瞞を抱えて生きていくのかい」
「そうかもね」
 欺瞞。
 手を汚すのは、誰か。
 そうかもしれない。
 所詮は――理屈だけの話だ。
 外から見れば、どちらにしろ、同じ。
 両方が手を汚すのと、変わらない。
 二人で、一緒に汚れていくのと変わらない、のだろう。
 だが、それでも――
「なら、そうするがいいさ――コンスタン」
「――何か」
 いつのまにか近寄ってきていたが――敵意はないようだ。
 両手を挙げていた。
 エフドもそろそろ限界のようだし――かまわないだろう。
 僕は一歩下がって、彼らの最後の会話を聞く。
「頼みがある――知っての通りぼくは、エルサレムのために貸し出された」
 またしても流浪の民となった、彼の同胞のために。
「だから、僕の骸は」
 ――あの地へ。
 コンスタン・ヴィルカは、無言で頷いた。
 それを見届けたか、どうか。
 目を閉じた少年は、そのまま動かなくなった。
 そういえば。
 エフドは、一度もコンスタンやリゼルを「ブラザー」や「シスター」と呼ばなかった。
 それは、そういうことだったのだと。
「――さようなら、エフド」

 ……ミュサ・アナマリアは、一直線に僕に向かってきた。
「眼鏡なくても、迷わないんだね」
「……あなたは、血のにおいにまみれていますから」
 そしていきなりぱあん、と僕の頬が鳴る。
 ……思い切りのいい子だなあ。
「何も悪いことをしていないシスターまで――よくも」
「シスター・リゼルを消したのは僕じゃない。エフドだ」
「貴方が居なければよかったんですっ!」
「……そうかもしれないね」
 しかし。悪いこと――だって?
 お笑いだ。
 僕にとっては、君たちが現れた事自体が充分悪い事だって言うのに。
「僕たちに、関わらなければよかった。それだけだよ」
「貴方は、最低です……貴方は盲目のわたくしよりも――何も見ていない」
 人間を、見ていない。
「あの、ばけものしか――」
 答えない。
 堪えない。
 応えない。
 僕はそういう人間だから。
「この――」
 そこまで言って、ぐらり、と彼女は揺れた。
 怒りと疲労で眩暈でも起こしたのだろう。
 いつのまにか後ろに立っていたコンスタン・ヴィルカが、再び彼女を受け止める。
「……アマネ・クダン。その辺にしておいてもらえまいか」
「続きをしますか、ブラザー・コンスタン」
 彼は無言で首を横に振った。
「……ミュサ、きみは、間違ってたよ」
 そして僕は、その開かない眼でなお睨みつけるミュサに言う。
 最初から、君たちはどこまでも優しくて、お人よしで。
 だから、僕は。
 君は、間違えた。
「――何がです」
「僕が、あの時、きみを拘束もせず、殺しもなかったのは――信頼に応えたからじゃない」
 ――ぴくり、と少女の肩が動く。
 僕は無表情のまま。
 なんの感情も、その声からは伺わせないように。
「ディクタットが停止していたから――それだけだ」 
 そう、告げる。
「……そう、あくまでそう言い張るんですね」
「それが、僕だから」
「もう止めろ、ミュサ。これ以上犠牲は出せん」
 コンスタン・ヴィルカが止める。
「でも!」
「ヨアキムとエフドが死んだ以上、現状の我々に対抗手段はない。タイタスからの通信も途絶えた。樹の意志が我々の側に無い以上、これ以上の流血は無益だ」
「まだわたくしが――」
「利益のない戦いで聖女の血は流せん」
 全滅しても任務を果たせとは言われていない、とミュサをなだめる彼を僕は眺める。
 樹はもう僕の横に戻ってきていた。
「それに、シスターの手当ても必要だ」
「……? しかし、シスターは」
「私の能力を忘れたのか?」
「……あ」
 なるほど、と気付いた。
「ああ――あの瞬間、飛ばしましたか」
「逃走用の車にな――だが、一瞬遅れた。足が少々『欠けた』ようだ。――彼女は自分で応急処置をしたと思うが、なるべく早く手当てをしてやりたい」
 エフドの死体も運んでやらねばならんしな、と彼は淡々と語る。
「君が牽制していなければ――エフドの治療も間に合ったかもしれんが」
「無理ですね」
 僕は彼が死ぬまで彼の側から動く気はなかったし――彼には、生延びる気がなかった。
「……かもしれん。しかし我々は君がイツキの『鞘』だと思っていたのだが――逆だったとはな」
 してやられたよ、と自嘲気味に笑ってから――コンスタンは改めて僕に向き直った。
 その表情には怒りか、憎しみか――いや、それだけではない何かがある。
 違和感があった。
「……何か、言いたいことが?」
「今回、我々は負けた。だが、ここまでして拒否する必要が、果たしてあったのかね?」
 イツキをそばに置いておきたいという、エゴを。
 そこまでして、と彼はいう。
 まあ、彼らはそう言うだろう。
 僕は、何度でも反論するだけ――いや、拒否するだけだ。
「それはこちらの台詞ですね――そもそも、こういう結果になったのも貴方たちが初めてじゃないですし」
 拒否という結論は決まっているのだから。
 こういう結果も必然。
 それは既に、結論の出ていることなのだから。
 終わってしまっていることなのだから。
 今そう在ること、起きたことに感傷は無い。
「だから、貴方たちが僕たちの感情を忖度する必要なんてありません。ミュサの憎悪は正等ですよ」
「そうだな。だが――いや、所詮は幸福など、相対的なものにすぎんか。だが、それは敵と味方の死体を積み上げてまで守りたい幸福なのかね?」
「幸福なんて上等なものじゃないです。あくまで僕のエゴですよ。貴方たちが思う通りに」
 ――だから、憎むなら、樹でなく僕を存分に憎んでください。
 僕は、そう彼に言う。
「そう出来ればいっそ気楽ではあるがね――では、言葉に甘えて」
 憎悪と幾分の憐憫を込めて、一つ告げておこう――彼はそう言った。
 しかしそういう彼の顔には憎悪も憐憫もない。
 あるのは――最低限の仕事を果たしたという――空しい達成感。
 達成感――だって?
「……なんです」
「我々は、何も失わない。今までも、これからも」
 彼はエフドの死体の側に立ち。
 ――頭を、いきなり撃った。
 血と脳漿が爆ぜ、飛び散る。
「ブラザー! 何を――」
 叫ぶミュサを無視して、彼は僕に見ろと示した。
 死体の頭から除くのは――小さな銀色の、細長い金属片。
 ちょうど耳の穴から入れそうな、芋虫のような、ミミズのような――すなわち。
「――これは」
「ワーズワームを扱えるのは別に教授だけではない」
 誤解されているようだがワームは『能力』ではない――兵器だ、と彼は言った。
 教授の能力は、あくまでそれをデバイスとして死者たちの運動性能を再構成し、操ること。
 そして、ワームを使用する本来の目的は――教会を。エイレナイオスを。聖トマスの真珠をより強靱にすること。
 インヴィクトゥスを頂点とするシステムを補完し更新し、組織としても戦闘集団としても進化させることにある、と。
「エフドの戦闘経験はすべて彼の脳に寄生していたワームに記録されている」
 そしてそれは戦闘中、常にリアルタイムで転送され、保存されていた。
 各所にあらかじめ私はカメラを仕掛けているが――その情報も同時に転送されている。
 そもそも、カメラはワームの情報を転送するための中継器でもあったのだと――そう言う。 
「我々が持つデータは更新され続ける。教授の戦闘経験やワームの操作実績も含めて」
 最も、彼自身は自分にもワームが入っていたとは気付いていなかった筈だが――と。
 ならば。
「――まさか」
「他の『真珠』も、ということかね? 勿論、例外などない」
 ミュサが愕然とした顔で、コンスタンを見た。
「この私も含め――『真珠』の全てはエイレナイオスに――ひいては教会に奉仕するために存在する。そのためならば士師が幾人死のうと、聖女が道半ばにして倒れようと大きな問題ではない」
 利益さえ得られるならば――敵であろうと味方であろうと。
 誰の死も、厭わない。
 しかしコンスタンは先程ミュサを止めた。
「……つまり、今回はもう充分なデータは得た、と」
「いかにも。だからこそ私は言おう」
 彼は僕に宣告する。
「おめでとう、件周。君の殺人は有用だった――君の味方にとっても、敵にとっても」
「――!」
 砂鉄の刃でなぎ払ったその場に、既にコンスタンとミュサ――そしてエフドの死体はない。
 二十メートルは離れた場所に跳んでいた。
「これからも、殺し続けるがいい。国のために、彼女のために――己のために」
 エフドの死体を抱えた彼の一言、一言が。
「それが皆の祝福となる」
 祝福という名の呪いとなって僕の耳を叩く。
「いや――所詮負け犬の遠吠えだったな、すまない」
 風に乗ってまだ聞こえる彼の言葉に勝ち誇る響きは無く。 
「君はイツキを――君の光を守るがいい。あるいは、その甘く優しい嘘を」
 それは確かに、僕を憐れむようで。 
「また別の真珠が、貝の中で生まれるまで――」
 そう、最後に囁いて。
 彼らは、消えた。

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